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福岡地方裁判所 昭和58年(ワ)672号 判決

原告 福岡市

右代表者市長 桑原敬一

右訴訟代理人弁護士 稲澤智多夫

同 山本郁夫

被告 安永三善

〈ほか七三八名〉

右被告ら訴訟代理人弁護士 伊藤祐二

同 岩本洋一

主文

一  別紙被告目録九棟記載の被告らは、それぞれ原告に対し、金一万三八〇〇円及び内金四六〇〇円に対する昭和五七年五月一日から同月三一日まで年七・三パーセント、同年六月一日から完済まで年一四・六パーセントの、内金四六〇〇円に対する同年六月一日から同月三〇日まで年七・三パーセント、同年七月一日から完済まで年一四・六パーセントの、内金四六〇〇円に対する同年七月一日から同月三一日まで年七・三パーセント、同年八月一日から完済まで年一四・六パーセントの各割合による金員(但し一〇円未満の端数は切捨て)を支払え。

二  その余の被告らは、それぞれ原告に対し、金一万四四〇〇円及び内金四八〇〇円に対する昭和五七年五月一日から同月三一日まで年七・三パーセント、同年六月一日から完済まで年一四・六パーセントの、内金四八〇〇円に対する同年六月一日から同月三〇日まで年七・三パーセント、同年七月一日から完済まで年一四・六パーセントの、内金四八〇〇円に対する同年七月一日から同月三一日まで年七・三パーセント、同年八月一日から完済まで年一四・六パーセントの各割合による金員(但し一〇円未満の端数は切捨て)を支払え。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

四  本判決一、二項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告の請求の趣旨

主文一ないし三項と同旨。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(原告の請求原因)

一  当事者

1 原告は、公営住宅法(以下「法」という)及び福岡市営住宅条例(以下「本件条例」という)により、別紙物件目録記載の建物(以下「本件福浜住宅」という)を建設し、現にこれを管理している。

2 被告らは、いずれも別紙被告目録の「入居許可日」欄記載の日に本件福浜住宅への入居許可を受け、昭和五七年六月三〇日まで各「室番号」欄記載の住宅に居住していた。

二  本件福浜住宅の家賃の変更

1 市営住宅の家賃は、建物の償却費、修繕費、管理事務費、損害保険料及び地代相当額の合計の月割額を限度として、事業主体が定めることになっている(法一二条一項、本件条例一二条)が、法一三条一項、本件条例一四条一項により、次の場合には家賃を変更することができると定められている。

(一) 物価の変動に伴い家賃を変更する必要があると認めるとき。

(二) 市営住宅相互の間における家賃の均衡上必要があると認めるとき。

(三) 市営住宅について改良を施したとき。

2 原告は、昭和五二年七月一日付で、昭和四七年度以前に建設した市営住宅の家賃変更を行なったが、その後の物価の変動により新設市営住宅の家賃との間に不均衡が生じたので、昭和五七年度からこれを是正するとともに、維持管理費を確保し住宅管理の適正を図るため、前項(一)、(二)の事由(法一三条一項一、二号)に基づき、昭和五二年度以前に建設した市営住宅を対象に家賃の変更を実施することになった。

3 昭和五七年三月現在における本件福浜住宅の家賃は、別紙被告目録の「変更前家賃」欄記載のとおりであったが、原告は、法一三条三項の家賃限度額(以下これを「法定家賃変更限度額」という)の範囲内で、物価の上昇率、市営住宅相互間の家賃の均衡等を考慮して、昭和五七年四月一日から右家賃を変更することとし、他の市営住宅を含めて変更による家賃歳入を昭和五七年度福岡市一般会計予算案に計上し、同年三月二六日原告市議会の議決を経たうえ、同年四月一日、本件条例の委任を受けた同条例施行規則を改正し、右同日から別紙被告目録の「変更後家賃」欄記載のとおり家賃の変更を決定した(昭和五七年福岡市規則四七号)。

4 右家賃の変更について、原告は、同年三月一二日被告らに対し、同年三月付「市営住宅家賃の改正について(お知らせ)」と題する書面をもって、右予算が成立した場合には同年四月一日から右のとおり家賃を変更する旨の通知を発し、右書面はその頃被告らに到達した。

三  今回の法定家賃変更限度額の算定について

1 建物の償却費については、工事費(補助金を除く)に建設大臣が政令で定めるところにより住宅宅地審議会の意見を聞き建築物価の変動を考慮して地域別に定める率(本件では昭和五六年建設省告示一六〇八号による)を乗じた額を、当初の家賃決定の場合と同様の方法で償却するものとして算定した(法施行令四条の四第一、二項、四条一、二号)。

(計算式)

工事費(補助金を除く)×建設大臣の定める率×0.06103(償却期間70年の償却率)×1/12

なお、本件福浜住宅の工事費は次のとおりである。

(棟番号) (工事費)

一棟ないし三棟 一億八六五九万四〇〇〇円

四棟 一億八五六四万三九三六円

五棟及び六棟 五億三七四一万〇九四四円

七棟及び八棟 四億四七二〇万〇〇〇〇円

九棟 一六億五一二三万九九五四円

一〇棟 一五億八八二三万二三九六円

一一棟 一三億〇四二九万五九三〇円

一二棟 九億三六二四万〇〇〇〇円

一三棟ないし一五棟 二八億九五〇〇万〇〇〇〇円

2 修繕費及び管理事務費については、工事費の額に建設大臣が地域別に定める率(本件では昭和五六年建設省告示一六〇九号による)を乗じた額(推定再建築費)を基礎として算定した(法施行令四条の四第二項、四条三号、法施行規則六条)。

(計算式)

①修繕費 工事費×建設大臣の定める率×12/100×1/12

②管理事務費 工事費×建設大臣の定める率×0.15/100×1/12

3 損害保険料については、工事費に社団法人全国市有物件災害共済会の建物総合損害共済業務規程一一条二項に定める別表の率を乗じて算定した(法施行令四条の四第二項、四条四号)。

(計算式)

工事費×0.2/1000×1/12

4 地代相当額については、土地取得造成費又は固定資産税評価額相当額のいずれか高いほうを基礎にして算定した(法施行令四条の四第三項)。

(計算式)

①  1~8,12~15棟

(固定資産税評価額相当額×6/100-家賃収入補助額×固定資産税評価額相当額/土地取得造成費)×1/12

②  9~11棟

(土地取得造成費×6/100-家賃収入補助費)×1/12

(一) 固定資産税評価額相当額について

(1) 本件福浜住宅敷地の近傍類似の土地である福岡市中央区福浜二丁目一番四の固定資産税評価額(昭和五六年度は一平方メートル当り二万四三三三円)を基礎として、これに沿接する路線価(右評価額よりも低い)を考慮のうえ、昭和五六年度の本件福浜住宅敷地の一平方メートル当りの固定資産税評価額相当額を定め、これに昭和五七年度(基準年度)の福岡市内の住宅地区における宅地の評価上昇割合の見込み二九パーセント相当額を加算した二万九四五五円をもって、同年度の右住宅敷地の一平方メートル当りの固定資産税評価額相当額とした(ちなみに、右福浜二丁目一番四の昭和五七年度固定資産税評価額は一平方メートル当り三万一〇七五円とされた)。

(2) そして、中層耐火構造の住宅(一棟ないし三棟)及び高層耐火構造の住宅(四棟ないし一五棟)ごとの一戸当りの平均敷地面積を、前者にあっては六六平方メートル、後者にあっては六四平方メートルとし、これを(1)の額に乗じて一戸当りの固定資産税評価額相当額を算定した。

(3) 一戸当りの平均敷地面積を右のように定めた根拠は、次のとおりである。

(イ) 昭和五七年度前の家賃変更においては、固定資産税評価額相当額の算定にかかる住宅一戸当りの敷地面積は、当初の家賃決定の場合とは異なり、当該住宅が属する団地全体の面積(但し、当該団地建設の一環として築造された道路、公園等の敷地で、その後当該施設の管理を専門に行なう原告の他の部局に管理を移したものを除く)を、当該団地に属する住宅の総戸数で除して得た面積としていた(単純戸割り方式。ちなみに、本件福浜住宅の昭和五二年度における家賃変更の場合の一戸当りの敷地面積は四六・五四平方メートルであった)。

(ロ) しかし、住宅一戸当りの建設に要する土地の面積は、当該住宅の構造により異なるのが通常であるから、本件福浜住宅のように中層と高層という異なる構造の住宅から成っている団地(混在団地)において、(イ)の方法を用いることは、当該構造が異なる住宅相互間において均衡を欠く結果となる。そこで、今回昭和五七年度の家賃の変更においては、右の点に改善を加えることとし、併せて、他の単一構造の住宅から成る団地(単一団地)との均衡をも考慮して、原告が当時設置・管理していた単一団地の一戸当りの敷地面積の平均値を基に、構造別の住宅の一戸当りの標準的な敷地面積を定め、これを混在団地のそれぞれの構造別の住宅の一戸当りの敷地面積としたもので(標準用地方式)、具体的算定方法は次のとおりである(ちなみに、本件福浜住宅の昭和五七年度における家賃変更の場合の一戸当りの敷地面積を(イ)の方法で算定すると四二・八四平方メートルになる)。

①  中層耐火構造住宅については、昭和四五年ないし四九年度建設分の同構造の単一団地である大浜、西春町、城浜、名柄、箱崎ふ頭の総敷地面積一六万九六四二・四四平方メートルを総戸数二五七八で除した六五・八〇平方メートルを基に、同構造の標準的な一戸当り平均敷地面積を六六平方メートル(小数点以下四捨五入)とした。

②  高層耐火構造住宅については、同構造の単一団地である桧原、香椎浜、吉塚、片江の総敷地面積五万二八八七・四三平方メートルを総戸数八二九で除した六三・八〇平方メートルを基に、同構造の標準的な一戸当り平均敷地面積を六四平方メートル(右同)とした。

(二) 土地取得造成費について

本件福浜住宅の敷地は、宅地造成済の土地として、福岡市住宅供給公社から原告が取得したものである(したがって、この土地について造成工事費は存在しない)が、その取得費は次のとおりである。

(棟番号) (取得時の地番・地積) (取得費)

一棟ないし三棟 福浜一丁目二番二(七二九〇平方メートル) 八八九九万二二三五円

四棟 福浜二丁目三番三(四六二四平方メートル) 六一六二万四九六八円

五棟及び六棟 福浜二丁目三番二(一〇七九一平方メートル) 一億六七六三万五二二八円

七棟及び八棟 福浜二丁目三番四(一八三四平方メートル) 六四七六万九八二三円

同三番五(二七九一平方メートル)

同三番六(五三九八平方メートル) 七九六七万七四六六円

九棟 福浜一丁目一番四(一部)(一一一〇八平方メートル) 五億〇四六八万三二四二円

(右地積及び取得費は、九棟と一一棟の敷地を一括して購入したので、両棟に属する住宅の総戸数の割合で比例案分したもの)

一〇棟 福浜一丁目一番八(九九三五平方メートル) 四億七三九四万二〇八七円

一一棟 福浜一丁目一番四(一部)(九〇〇八平方メートル) 四億〇九二五万九九四〇円

(右地積及び取得費は九棟についての説明参照)

一二棟 福浜一丁目一番三(一部)(七三八〇平方メートル) 二億九四四九万三八一六円

(右地積及び取得費は、一二棟と一三棟ないし一五棟の敷地を一括して購入したので、両棟群に属する住宅の総戸数の割合で比例案分したもの)

一三棟ないし一五棟 福浜一丁目一番三(一部)(二二二三〇平方メートル) 八億八七〇二万九五六八円

(右地積及び取得費は一二棟についての説明参照)

5 以上により算定した今回の法定家賃変更限度額は、別紙一覧表記載のとおりである。

四 今回の家賃変更額について

1  今回の家賃の変更は、昭和五二年度以前の建設にかかる原告市営住宅六八団地約一万八〇〇〇戸を対象に行なったものであり、右変更に当っては、前記限度額まで変更(増額)することを原則としたが、一方において、入居者の負担能力、原告市営住宅全体における家賃の均衡等を勘案して、次のような基準による調整を加えた結果、平均変更率は三〇パーセントとなった。

(一) 変更額の幅は月額四八〇〇円、変更率は六〇パーセントをそれぞれ限度とした。

(1) 昭和五〇年八月九日付住宅宅地審議会の「今後の住宅政策の基本的体系について」と題する答申は、家賃の負担限度について、「全世帯を年間収入の状況に応じて低位から順次五等分した所得五分位階層の第一分位における標準世帯(夫婦と子供二人)の負担限度は世帯収入のおおむね一五パーセント程度が妥当である。」としているところ、福岡市における生活保護の標準世帯(三五才男、三〇才女、九才男、四才女)の保障水準(月額)の昭和五二年四月から昭和五六年四月までの一五パーセント相当の増加額を算定すると、およそ五八八八円となり、これを年平均でみると一四七二円となる。

そこで、原告は、少なくとも年平均一〇〇〇円の家賃負担の増が右答申の趣旨にも沿う妥当な金額であると判断し、前回の家賃変更から今回の変更までの経過期間を考慮して、五年間相当分の増加額は五〇〇〇円であるところ、そのうち四八〇〇円をもって変更額の幅の限度とした。

(2) 変更率については、建設年度の古い市営住宅の家賃は極めて低額であり、これらの市営住宅の変更後の家賃を前記限度額まで増額すると変更率が極めて高くなるので、かような急激な変更を避けるため、六〇パーセントを限度とした。

(二) 右四八〇〇円を加算した額が今回の家賃の変更の対象となっていない昭和五三年度建設の同種、同等の市営住宅の家賃額を上廻るときは、当該額を限度とした。

2  本件福浜住宅は、全部で一五棟一九五一戸から成るが、これらすべてが今回の家賃変更の対象となっており、一棟から八棟まで及び一一棟から一五棟までについては前項の(一)を、九棟及び一〇棟については更に同(二)(同種、同等の市営住宅は吉塚、片江で、その家賃月額は三万四一〇〇円)を適用し、次のとおりの変更を行なった。

(棟番号) (変更前家賃) (変更後家賃) (変更額) (変更率)

一、二、三棟 一〇三〇〇円 一五一〇〇円 四八〇〇円 四六・六%

四棟 一一二〇〇円 一六〇〇〇円 四八〇〇円 四二・九%

五、六棟 一二九〇〇円 一七七〇〇円 四八〇〇円 三七・二%

七、八棟 一一八〇〇円 一六六〇〇円 四八〇〇円 四〇・七%

九棟 二九五〇〇円 三四一〇〇円 四六〇〇円 一五・六%

一〇棟 三三五〇〇円 三四一〇〇円 六〇〇円 一・八%

一一棟 一九五〇〇円 二四三〇〇円 四八〇〇円 二四・六%

一二棟 一八〇〇〇円 二二八〇〇円 四八〇〇円 二六・七%

一三、一四、一五棟 二五〇〇〇円 二九八〇〇円 四八〇〇円 一九・二%

(平均変更率二八・四%)

3 なお、以上はすべて基準家賃であって、別紙被告目録の「変更前家賃」「変更後家賃」欄各記載の金額がこれを超えるものは、右変更後の基準家賃に加えて、本件条例二四条の規定による割増賃料を徴収されている者(収入基準超過者)である。

五 被告らの家賃未納

本件福浜住宅の家賃は毎月末日までにその月分を原告に納付することになっているが、被告らは、前記変更後原告の再三にわたる督促にも拘らず、変更前の家賃相当額しか納付しない。

六 本訴請求

よって、原告は、被告らに対し、昭和五七年四月から同年六月分までの未納家賃(九棟居住者につき一万三八〇〇円、その他の者につき一万四四〇〇円)並びに各月の未納家賃に対する納期限の翌日から完済まで福岡市税外収入金の督促及び延滞金条例(昭和三二年福岡市条例一二号)四条の規定による年一四・六パーセント(但し、当該納期限の翌日から一か月を経過する日までの間は年七・三パーセント)の割合による延滞金(一〇円未満の端数は切捨て)の支払を求める。

(請求原因に対する被告らの認否)

一  請求原因一の事実は認める。

二  同二の事実について、

1は認める。

2のうち、昭和五七年度以降家賃の変更事由が生じたことは否認し、その余は認める。

3のうち、本件福浜住宅の変更前の家賃額及び原告が変更した家賃額は認めるが、原告が事前に法定家賃変更限度額を算定したうえで右家賃の変更を行なったことは否認し、その余は不知。

4は認める。

三  同三の事実は不知。

四  同四の事実について、

1は不知。

2のうち、原告が本件福浜住宅の家賃の変更を行なったことは認めるが、その余は不知。

五  同五の事実は認める。

(被告らの主張)

一  本件条例の違法性

1 法一三条一項は、公営住宅の家賃の変更は条例で行なうことを要求している。これは、当初の家賃を条例で定めることを義務づけている法一二条三項に対応するものである。このように、法は、公営住宅の家賃の決定、変更を条例で定めることを義務づけることによって、家賃の決定、変更に議会を関与させて住民の意向を反映させ、もって、家賃の適正化を担保しようとするものであるから、家賃を条例よりも下位の規範をもって定めることを禁止していると解さなければならない。

2 しかるに、本件条例は、一二条、一四条一項により、家賃の決定、変更を市長に委ね、具体的な家賃額は同条例施行規則で定めることとしている。そのため、今回の家賃の変更も右規則の改正をもって処理されたものである。したがって、右変更は違法、無効といわなければならない。

二  家賃変更要件の欠如

1 法一三条一項一号の要件について

前回の家賃変更時である昭和五二年の福岡市物価指数中家賃は八一・五(昭和五五年を一〇〇とする)であるのに対し、昭和五七年四月のそれは一〇九・〇であって、右上昇率は約三三パーセントに過ぎない。しかるに、今回の家賃変更率は殆んどの市営住宅が六〇パーセント増であり、本件福浜住宅についても棟によって一・八パーセントから四六・六パーセントとばらつきがあり、右物価指数上昇率との因果関係は全くみられない。なお、原告は、生活保護の標準世帯の保障水準の増加額を一応の目安としたと主張するが、生活保護費の額は政策的要素が強く、しかも民間の借家家賃を顧慮して決められているものであるから、これを目安としたこと自体、物価上昇と関係のない家賃変更であることを示している。

2 同項二号の要件について

本件福浜住宅についてみると、今回の家賃変更の結果、一〇棟が従来最高額であったものが九棟と同額になっていたり、或いは、他の市営住宅と比較すると、家賃値上げ額は右福浜住宅が最も高いため、他の市営住宅の家賃との差はますます大きくなっている。かかる点からみる限り、今回の家賃変更が各住宅相互間の家賃の不均衡是正を目的としてなされたとは到底認められない。

3 家賃変更の必要性について

原告は、市営板付南住宅についても、昭和五七年度から家賃を月額二万九四〇〇円(従前は二万六〇〇〇円)に変更したが、昭和五八年三月頃、右家賃変更に対し反対運動を行なっていた同住宅の住民団体である板付南団地管理組合との間で、「一戸当り月額一三〇〇円を原告から同組合に支払う。本来入居者が負担していた廊下など共同灯の電気代を原告が負担する。本来入居者が負担すべき入居中の畳の補修費を原告が負担する。本来入居者が負担していた退去時の畳、襖の補修費を原告が負担する。」旨の合意をして、右反対運動を鎮めた事実がある。かかる合意は、右家賃変更による増額分を他の名目で入居者に還元し、実質上は家賃増額による入居者の負担をなくそうとする目的でなされたことが明らかである。このように、原告が、各市営住宅ごとに適宜に妥協策をとっている事実からすれば、今回の家賃変更の必要性は全くなかったといわなければならない。

三  法定家賃変更限度額算定方式変更の違法性

1 原告が今回の家賃変更に先立ち右限度額を算定したとは到底認められないから、右変更はこの点において既に違法無効であるが、仮に事前に右限度額を算定したとしても、原告によれば、右限度額のうち地代相当額の算定に用いる固定資産税評価額相当額の算定方法を、従来の単純戸割り方式から標準用地方式に変更したというのである。その結果、本件福浜住宅についていえば、一戸当り敷地面積が従来の方式によれば四二・八四平方メートルとなるはずであるのに、今回の方式では、一棟ないし三棟が六六平方メートル、他の棟が六四平方メートルとなり、地代相当額ひいては限度額が高額となるように変更されたといわなければならない。

2 このように、一戸当りの敷地面積の算定方式を変更した理由について原告の主張するところは、到底納得できるものではない。

(一) 本件福浜住宅には中層構造と高層構造の住宅が混在していることは確かであるが、この場合、単純戸割り方式が各住宅相互間の均衡を欠くというのであれば、中層建物の敷地を中層戸数で、高層建物の敷地を高層戸数でそれぞれ割って各敷地面積を求めれば足りるし、むしろこの方式のほうがより合理的である。

(二) 地代相当額は、当初の家賃決定の場合には土地取得造成費を用いて計算し、家賃変更の場合には固定資産税評価額相当額か土地取得造成費のいずれか高額なほうを用いることになっているが、標準用地方式を採用すれば、たまたま右評価額のほうが高くなる住宅だけは平均敷地面積を使うことになるから、個別的に異なる土地取得造成費を使う住宅との間に均衡がとれない。そもそも、市営住宅は団地ごとに条件が異なるものであるから、限度額も団地ごとに違うのは当然であり、これが個別主義、原価主義に基づく家賃というべきものであって、標準用地方式はこの個別主義、原価主義に反する不合理性を有している。

(三) 標準用地方式を採用して限度額を算定しても、限度額の枠内で家賃を決める以上、原告の主張する構造の異なる住宅から成る混在団地と単一構造住宅から成る単一団地との間で、家賃の均衡が維持できるとは限らない。具体的な家賃は限度額の枠内で種々の要素を考慮して決定されるものであって、限度額イコール家賃額となるのではないからである。

(四) 本件福浜住宅の場合、原告主張の数値に基づき、従来の方式(地代相当額につき単純戸割り方式を用いる)で算定すると、各棟の限度額は、別紙法定家賃変更限度額一覧表のうち一部の棟につき地代相当額が減額される結果、次のとおりとなる。

(棟番号) (地代相当額) (限度額)

一、二、三棟 三一五五円 一四六六六円

四棟 三一五五円 一八九五九円

五、六棟 三一五五円 一九九八二円

七、八棟 三一四七円 一八六一〇円

九棟 五三〇一円 三五七四九円

一〇棟 五一八三円 三九二〇一円

一一棟 三五三四円 二六八九一円

一二棟 二九五六円 二二七六七円

一三、一四、一五棟 四四三五円 三〇一七〇円

右により算定した限度額を右一覧表記載の限度額と比較してみると、一棟ないし八棟及び一二棟ないし一五棟については、標準用地方式を用いた後者のほうが高額となっていることが明らかである。このように、今回は、従来の限度額より高くなる限度額の算定方式が用いられたのであるが、かかる算定方式の変更は、法一二条一項、一三条二項に違反するもので許されないと解すべきである。けだし、法の趣旨からすれば、限度額の算定方式を事業主体が勝手に設定すること、特に従来の方式によるよりも限度額が高くなるような方式に変更することを認めているとは到底考えられないからである。

(被告らの主張に対する原告の反論)

一  本件条例と家賃の決定、変更について

公営住宅の家賃の決定、変更は法一二条三項及び一三条一項により条例事項とされているが、これは必ずしも具体的な個々の家賃の額まで条例で規定しなければならないということではなく、公営住宅の家賃の算定が技術的且つ個別的であり、更に実際の家賃の額までそれぞれ条例で規定することは運用の円滑を欠くことともなるため、その具体的な額の決定、変更は規則に委任するほうがむしろ合理的であると考えられる。したがって、原告が規則に基づいて市営住宅の具体的な家賃の決定、変更をしても何ら違法ではない。

二  家賃変更要件の存在

1 法一三条一項の要件について

公営住宅の事業主体が家賃の変更に当り右の要件に該当するか否かを判断するのは、いわば家賃変更の可否の前提要件であるから、家賃の変更が物価上昇と因果関係がないとか、家賃の不均衡是正のためになされたものとは認められないとして、右家賃の変更を無効と主張するのは失当といわざるを得ない。既述のように、原告は、今回の家賃の変更を行なうに当り、物価上昇はもちろんのこと、市営住宅相互間の家賃の均衡及び入居者の負担能力等を考慮したものである。

2 同項一号の要件について

右に述べたところよりして、今回の家賃の変更率が被告ら主張の物価指数の上昇率と一致していないとしても不当ではない。

3 同項二号の要件について

今回の家賃変更当時、家賃変更対象外の住宅も含めた福岡市全体の第一種市営住宅の最高家賃額は月額四万二六〇〇円(那珂東住宅)であるのに対し、最低家賃額は月額五六〇〇円(月見町第一住宅)であり、その差は三万七〇〇〇円であった。また、右家賃変更対象住宅だけでみても、最高家賃額は月額三万三五〇〇円(福浜住宅一〇棟)であるのに対し、最低家賃額は月額五六〇〇円(月見町第一住宅)であり、その差は二万七九〇〇円であった。かかる事実をみれば、当時市営住宅相互間に著しい家賃の不均衡が生じていたことは明らかであり、これが今回の家賃変更により是正されたのである。

4 市営板付南住宅の家賃変更後の合意について

原告と板付南団地管理組合との間で被告ら主張のような合意がなされた事実はあるが、その目的は否認する。この合意は、同団地の二棟ないし五棟の建物の設置及び構造上の関係から、特に他の市営住宅に比し、通風、採光等の居住環境が悪く、ために結露が甚だしく、これに起因する補修等が必要と認められたためになされたものである。

三  法定家賃変更限度額算定方式の変更について

1 被告らは、原告が今回の家賃変更に当り地代相当額の算定を単純戸割り方式から標準用地方式へと変更したため、地代相当額ひいては限度額が高額に変更されたと主張する。しかしながら、今回家賃を変更した本件福浜住宅と同様な混在団地(市営八田第二住宅の一部、市営松崎住宅の一部等)においては、標準用地方式を採用した結果、逆に一戸当りの地代相当額が低くなっているところもあり、全体としてみれば、構造の異なる住宅相互間及び全団地相互間の均衡が図られている。

2 標準用地方式に対する被告らの批判について

(一) 混在団地の場合、構造の異なる住宅団地ごとに敷地面積を算出するのも一方法であるが、今回の家賃変更当時、かかる方法を採用することは実務上極めて困難な状況にあった。即ち、一団の団地の敷地面積については、新しい団地の建設等に伴い、新たに土地を購入したり、公園や道路等を市の他部局に移管したりすることがある。これが単一団地であれば敷地面積の把握が容易であるが、混在団地の場合は、長期にわたって団地が形成されていくために、構造の異なる住宅団地ごとに敷地面積を算出しようとすると、所管替えにかかる面積のうちどの部分が異構造部分のどの部分に該当するか特定できない団地が生ずるのであり、現に今回の家賃変更当時かかる団地が存在した。かような状況の下において、当時三四も存在する混在団地の家賃を前記の方法で一度に見直すことは実務上極めて困難であった。

(二) 被告らのその余の批判も理由がない。要するに、単純戸割り方式を標準用地方式に変更したのは、すぐれて行政裁量の範囲内の問題であり、原告がより合理的な限度額算定方式として標準用地方式を採用したものであることは、既に詳述したところから明らかである。

第三証拠《省略》

理由

一  当事者間に争いのない事実

1  原告は、法及び本件条例により、本件福浜住宅を建設し、現にこれを管理している。

2  被告らは、いずれも別紙被告目録の「入居許可日」欄記載の日に本件福浜住宅への入居許可を受け、昭和五七年六月三〇日まで各「室番号」欄記載の住宅に居住していた。

3  原告は、昭和五二年七月一日付で、昭和四七年度以前に建設した市営住宅(本件福浜住宅では一棟ないし八棟)の家賃変更を行なった。

4  昭和五七年三月現在における本件福浜住宅の家賃は、別紙被告目録の「変更前家賃」欄記載のとおりであったが、原告は、昭和五七年四月一日、本件条例の委任を受けた同条例施行規則を改正し、右同日から別紙被告目録の「変更後家賃」欄記載のとおり家賃の変更を決定した。

5  右家賃の変更について、原告は、被告らに対し、昭和五七年三月一二日過ぎ頃到達した書面をもって、その旨を事前に通知した。

6  右家賃は毎月末日までにその月分を原告に納付することになっているが、被告らは、右変更後原告の再三にわたる督促にも拘らず、変更前の家賃相当額しか納付しない。

二  今回の本件福浜住宅の家賃の変更(以下「本件家賃変更」という)の適法性

1  市営住宅の家賃は、建物の償却費、修繕費、管理事務費、損害保険料及び地代相当額の合計の月割額を限度として、事業主体が定めることになっている(法一二条一項、本件条例一二条)が、法一三条一項、本件条例一四条一項により、次の場合には家賃を変更することができると定められている。

(一)  物価の変動に伴い家賃を変更する必要があると認めるとき。

(二)  市営住宅相互の間における家賃の均衡上必要があると認めるとき。

そこで、本件家賃変更について右事由の有無を判断するに、《証拠省略》によれば、福岡市における消費者物価指数は、昭和五五年を一〇〇として、昭和五二年で八五・二であったものが昭和五七年四月では一〇五・七となっており(ちなみに、そのうち家賃は、昭和五二年で八一・五であったものが昭和五七年四月では一〇九・〇となっている)、福岡市における市民所得も、昭和五二年度で一七一万〇二七七円であったものが、昭和五六年度では二三五万一九九七円と伸びていること、市営住宅の家賃は、工事費及び用地取得費等により決定されるため、同程度の住宅でありながら、建設年度の相違により、その間の工事費等の変動を反映して相当な不均衡が生じがちであり、現に昭和五七年三月当時、本件家賃変更対象外の住宅も含めた福岡市全体の第一種市営住宅の最高家賃額は月額四万二六〇〇円(那珂東住宅)であるのに対し、最低家賃額は月額五六〇〇円(月見町第一住宅)にとどまり、右家賃変更対象住宅だけでみても、最高家賃額は月額三万三五〇〇円(福浜住宅一〇棟)であるのに対し、最低家賃額は月額五六〇〇円(月見町第一住宅)であるなど、原告の市営住宅相互間の家賃の不均衡が顕著であったこと、以上の各事実が認められ、かかる事実によれば、本件家賃変更については、前記(一)、(二)の事由があったものと認めるのが相当である。

2  次に、本件家賃変更に関する法定家賃変更限度額について判断する。

《証拠省略》を総合すれば、原告は、請求原因三1ないし4記載の方式により、本件法定家賃変更限度額を算定し、別紙一覧表記載のとおりの結果を得たことが認められる。

右のうち、4(一)の固定資産税評価額相当額の算定に当り、住宅一戸当りの敷地面積を決定するにつき原告が採用した方法に対しては、被告らから、違法無効であるとの主張がなされているので、この点について考察する。

右の認定によれば、住宅一戸当りの敷地面積の決定については、原告において、従来単純戸割り方式を採っていたのに、今回の本件家賃変更に当ってはこれを標準用地方式に改めたのであり、その結果、本件福浜住宅についていえば、一戸当りの敷地面積が従来の方式によれば四二・八四平方メートルとなるはずであるのに、今回の方式では、一棟ないし三棟が六六平方メートル、他の棟が六四平方メートルとなり、地代相当額ひいては前記限度額が高額となるように変更されたといわなければならない。

確かに、原告が主張するように、住宅一戸当りの建設に要する土地の面積は、当該住宅の構造により異なるのが通常であるから、本件福浜住宅のように中層と高層という異なる構造の住宅から成っている団地(混在団地)においては、単一構造の住宅から成っている団地(単一団地)の場合と異なり、右敷地面積の算出につき単純戸割り方式を用いることは、当該構造が異なる住宅相互間において均衡を欠く結果となる。しかし、そのことから直ちに標準用地方式の採用が正当化されるものではなく、住宅一戸当りの敷地面積は、本来、当該住宅が実際に利益を受けていると認められる敷地の広さ(この場合、当該住宅団地建設の一環として築造された道路、公園等の敷地で、その後当該施設の管理を専門に行なう他の部局に移管したものを除くかどうかは、原則として事業主体の裁量により決することができるものと解される。証人谷口和仁の証言参照)でこれを決すべきものであるから、混在団地の場合には、各棟又は各群(同一構造の数棟)ごとに敷地の範囲を明確にし、その面積を当該各棟又は各群に属する戸数で除して、一戸当りの敷地面積を算出するのが筋でなければならない。

右の点について、原告の主張するところは、一団の団地の敷地面積については、新しい団地の建設等に伴い新たに土地を購入したり、公園や道路等を市の他部局に移管したりすることがあるので、混在団地の場合には構造の異なる棟又は群ごとに敷地面積を算出することができない事例があるというのであり、《証拠省略》中にも、本件家賃変更当時右のような事例があったことを窺わせる証言部分がみられる。しかし、《証拠省略》によれば、本件福浜住宅の場合は、少なくとも、一棟ないし三棟(中層)、四棟ないし八棟(高層)、九棟ないし一五棟(高層)の三群ごとに敷地面積を算出することが不可能ではなかったと認められるのであり《証拠省略》中にも「時間をかければできた」旨の証言がみられる)、かかる混在団地についてまでも、たやすく標準用地方式により一戸当りの敷地面積を決定した原告の今回の措置は、行政実務の便宜に偏り過ぎたとのそしりを免れない。

したがって、本件福浜住宅について従来の単純戸割り方式を改めて標準用地方式を採用した点に原告主張のような合理性があることは否定できないとしても、標準用地方式により算定した限度額が結果的に実態と著しくかけ離れて高額であると認められるならば、原告が本件福浜住宅につき標準用地方式を採用したことは、その裁量の範囲を逸脱した違法なものといわざるを得ない。

しかるところ、本件の証拠上は、本件福浜住宅の各棟について、その建設時の土地取得面積(前示認定の請求原因三4(二)記載のとおり)を基準として住宅一戸当りの敷地面積を算定する(これを「原始用地方式」という)のが、右の実態に最も近いと認められるから、この原始用地方式により、原告主張の諸数値に基づき地代相当額を試算し、その結果を、標準用地方式(別紙一覧表)及び単純戸割り方式(被告らの主張三2(四))による算定結果と対比してみると、次のとおりになる(単位は円)。

(棟番号) (原始用地方式) (標準用地方式) (単純戸割方式)

一棟ないし三棟 四四九二 四八六〇 三一五五

四棟 三五三五 四七一二 三一五五

五、六棟 三五三五 四七一二 三一五五

七、八棟 三五三五 四七一二 三一四七

九棟 五三〇一 五三〇一 五三〇一

一〇棟 五一八三 五一八三 五一八三

一一棟 三五三四 三五三四 三五三四

一二棟 二九五六 三一四一 二九五六

一三棟ないし一五棟 四四三五 四七一二 四四三五

右の対比によれば、標準用地方式による地代相当額は、一部の棟について他の方式による算定額よりも高額ではあるけれども、標準用地方式による算定結果が原始用地方式のそれと著しくかけ離れて高額であるとまではいうことができないから、原告が本件福浜住宅につき標準用地方式を採用したことをもって、その裁量の範囲を逸脱した違法なものと断ずるのは相当でない。

3  進んで、本件家賃変更の具体的金額について判断する。

《証拠省略》を総合すれば、原告は、請求原因四1ないし3記載のとおり、前記限度額(別紙一覧表)の範囲内で、本件福浜住宅について家賃の変更を行なったことが認められるところ、この変更額については、著しく合理性を欠くなど行政裁量の範囲を逸脱したものとは到底認めることができない。

4  以上によれば、本件家賃変更は適法に行なわれ、本件福浜住宅の家賃は、昭和五七年四月一日から別紙被告目録の「変更後家賃」欄記載のとおり変更されたといわなければならない。

三  被告らの主張に対する判断

1  本件条例の違法性について

法一二条三項及び一三条一項は、公営住宅の家賃の決定、変更について、その具体的な個々の家賃の額まで条例で規定しなければならないとする趣旨ではなく、右家賃の算定が技術的且つ個別的であり、更に実際の家賃の額までそれぞれ条例で規定することは運用の円滑を欠くことにもなるため、その具体的な額の決定、変更は規則に委任するほうがむしろ合理的であると解されるから、本件条例一二条、一四条一項が右家賃の決定、変更を市長に委ね、具体的な家賃額は同条例施行規則で定めることとしていても、その算定方式について一定の限度を定めている以上何ら違法ではないというべきである。

2  本件家賃変更要件の欠如について

市営住宅の事業主体が家賃の変更に当り法一三条一項各号の要件に該当するか否かを判断するのは、家賃変更の可否の前提要件であるところ、本件家賃変更が同項一、二号の要件を具備していることは既に認定したとおりである。この場合、右家賃の変更率が物価指数の上昇率と一致していることや、住宅相互間の家賃の不均衡が完全に是正されたことまでを必要とするものではない(なお、《証拠省略》によれば、本件家賃変更によって、原告市営住宅相互間の家賃の不均衡が相当程度是正されたことが認められる)。

また、原告が板付南団地管理組合との間で被告ら主張のような合意をしたことは当事者間に争いがないが、《証拠省略》によれば、右の合意は、右団地の二棟ないし五棟の建物の設置及び構造上の関係から、特に他の市営住宅に比し、通風、採光等の居住環境が悪く、ために結露が甚だしく、これに起因する補修等が必要と認められたためになされたもので、本件家賃変更の必要性を否定し得る事情とはなり得ないことが認められる。

3  法定家賃変更限度額算定方式の変更について

右の点については、既に説示したとおりであり、これが法一二条一項、一三条二項に違反するもので許されないとまでは解し難い。

四  結語

以上の次第で、被告らは、原告に対し、それぞれ昭和五七年四月から同年六月分までの未納家賃(九棟居住者につき一万三八〇〇円、その他の者につき一万四四〇〇円)並びに各月の未納家賃に対する納期限の翌日から完済まで福岡市税外収入金の督促及び延滞金条例(昭和三二年福岡市条例一二号)四条の規定による年一四・六パーセント(但し、当該納期限の翌日から一か月を経過する日までの間は年七・三パーセント)の割合による延滞金(一〇円未満の端数は切捨て)を支払うべき義務がある。

よって、原告の本訴各請求をいずれも正当として認容すべく、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷水央)

〈以下省略〉

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